TOP > 開発秘話_episode 03
2008年にデビューした初代アイサイトは、ステレオカメラを活用した独創的なADASとして注目を集め、「ぶつからないクルマ」というキャッチコピーとともに人気を博しました。自信を深めた開発チームは引き続き2011年にver.2、2014年にver.3を発表。より人間の目と脳に近づくべく、ステレオカメラのカラー化、撮像素子やCPUおよびソフトウェアの強化などを進めます。2010年からプロジェクトに参画した先進安全設計部の真壁俊介は、以来今日まで画像認識を担当。ver.3では『悪環境を検出してシステムを止める』機能を手がけました。「大雨や大雪で視界が遮られたり、砂塵でフロントガラスが汚れたり、寒冷地でフロントガラスが凍りついたり、悪環境のもとでは、アイサイトが画像を十分に認識できないケースが発生します。カメラの目がよく見えない状態になるわけで、あえてシステムを止めてドライバーに知らせないと、事故につながりかねません」。もちろん、そんなケースは万にひとつも起こらないのだが、ユーザーは世界のさまざまな環境の中を走行する。「どこまでは見えて、どこからは見えなくなるのか。あらゆるシチュエーションをつぶさに見つけるため、極寒のフィンランドから灼熱のアメリカまで、世界中を延べ地球2周半は走ってデータを集め、システムの精度を上げていきました」。
2010年代、自動運転への機運が高まるなか、アイサイトver.3は高速道路の単一車線での走行を自動で支援する「ツーリングアシスト」機能を実現します。ステレオカメラが左右の白線を認識し、そのラインに沿って走るように制御する仕組みです。では次なるテーマは何なのか。開発チームで車線変更までアシストしたい、料金所を通る時は自然に速度を落としたい、渋滞時にはハンズオフ運転で…とアイデアを出し合いながら次の開発を進め、いずれの機能も2020年、新型レヴォーグのアイサイトXに搭載しました。アイサイトの開発陣がこだわったのは「リアルワールドで安心して使えるシステムを提供する事」。最高の安全性を独自の技術で実現し、SUBARUの全てのお客様にお届けすることで、広く価値が認められ、多くの人に乗ってもらえることで交通事故を減らす事ができると一貫して考えてきたからです。ドライバーがストレスを感じることなく、安全・安心・快適に運転できるよう、なるべく自動でアシストできればいい。それが必ず『2030年死亡交通事故ゼロへ』というSUBARUの目標につながると私たちは信じています」。
格段に進化を遂げたアイサイトX。いちばんの革新は「拡張された目配りと気配り」です。目配りとはステレオカメラの視野。「視野はかなりワイドになり、三車線の高速道路の中央のレーンを走行中に、左右の隣車線の外側の白線と中央分離帯や側壁まで見わたせるようになりました。遠目も車両で130mほど先まで見通せます」。さらに前後左右にミリ波レーダーを装着し、並走車や後続車の動きも緻密に検知できるようになりました。そして気配りの画像認識。「カメラの広角・望遠性能と分解能、FPGAの処理能力などハードが強化されたので、ソフトウェアを駆使して画像認識と車両制御の性能向上を図りました。例えば車線変更したいと思ったら、ウィンカーを出すだけで、後は自動で滑らかに完了します。この『滑らかに』が重要で、先行車と並走車と後続車の有無と位置関係や速度など、アイサイトの目配りで得られるデータをもとに、きめ細かく気を配ってステアリングやアクセルやブレーキをコントロール。人が運転するより滑らかに、すなわち安全・安心・快適に車線変更できて、事故のリスクも限りなく低減します」と真壁。アイサイトXはそれだけ人間の目と脳に近づいているわけですが、真壁をはじめ開発チームは、もっと先を捉えています。「人にはエラーがつきもの。アイサイトがヒューマンエラーまで対応できたら、人間を超えることも不可能ではないと、壮大な夢ですけれど」。