SUBARU BRZ 年次改良モデルの開発秘話 【MT車専用「SPORTモード」編】

SUBARU BRZ 年次改良モデルの開発秘話
【MT車専用「SPORTモード」編】

記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています

仕事は違っても、「笑顔をつくる」という想いでつながる「SUBARUびと」。様々な部署で働く「SUBARUびと」を、仕事内容や職場の雰囲気を交えてご紹介します。今回は、2024年7月に改良モデルが発表された「SUBARU BRZ」(以下、BRZ)に新搭載されたMT車専用「SPORTモード」の開発に携わる、2名のエンジニアにインタビューしました。

花沢 雅史

花沢 雅史(はなざわ まさふみ)さん

2006年入社。大学院では機械工学を学び、中でも熱流体に関する研究を専攻。入社後から一貫してエンジン性能評価・実験業務を担当。 出力・排ガス・燃費・故障診断システム(OBD)といった、エンジンに求められる各種性能すべての開発経験を有する。 2年半にわたる北米駐在の後、現在ではスーパー耐久シリーズ用ターボエンジンの開発に従事。

山中 康平

山中 康平(やまなか こうへい)さん

2016年入社。大学院では機械材料に関する研究を専攻。入社後は、全車種のエンジン部品の信頼性評価や、BRZのエンジン制御開発を担当し、ハード開発からソフト開発まで幅広くエンジン開発に携わった。現在ではバッテリーEVの先行開発を担当しながら、2022年のスーパー耐久シリーズ参戦当初からTeam SDA Engineeringの一員としても活動。

開発のきっかけは
プロドライバーの一言

山中:
今回開発した「SPORTモード」は、ドライバーのアクセル操作に対してよりリニアにエンジンが吹け上がるスポーツ性を高めたモードです。アクセルを踏む右足でクルマを自由自在に操れるような、クルマをコントロールする愉しさを大切に開発しました。従来モデルと同様の、中高速域におけるコントロール性と快適性を高度にバランスさせたNORMALモードと切り替えることで、走行シーンに合わせて走りのテイストを自由に選択できるところは、これまでにない新たな魅力だと思います。

「SPORTモード」スイッチ(画像はSTI Sportグレード)

「SPORTモード」スイッチ(画像はSTI Sportグレード)

花沢:
私たちSUBARUは「Team SDA Engineering」として、2022年よりスーパー耐久シリーズにBRZをベースとしたレーシングマシンで参戦*1しているのですが、SPORTモード開発のきっかけは、まさに初陣を目前に控えた2022年3月の出来事でした。
*1:ニュースリリース…カーボンニュートラル燃料を使用するSUBARU BRZでスーパー耐久シリーズ2022へ参戦
https://www.subaru.co.jp/news/2022_03_18_142138/

第1戦に向けたテスト走行の際、レーシングドライバーの井口 卓人選手・山内 英輝選手から「とにかくアクセルレスポンスが欲しい」と言われたんです。BRZはFRレイアウト*2 のピュアスポーツカーではありますが、雨・雪といったコンディションを問わず安心して走れるクルマを目指しているので、スポーツ走行に特化して考えるとやや物足りなさもあったと思います。
*2:フロントにエンジンを搭載した後輪駆動方式

2024 シリーズではドライバーも務める花沢さん)

2024シリーズではドライバーも務める花沢さん

山中:
私は当初、ドライバーの言う「レスポンス」という言葉の真意がしっかり理解できていなくて、「アクセルを踏んだときのパンチ感」のことだと思っていました。ですので、第1戦には踏んだ瞬間にトルクが立ち上がるような制御を作りこんで臨んだのですが…これは当てがハズレまして(笑)

Team SDA Engineering の活動開始初期からマシン開発に携わる山中さん

Team SDA Engineeringの活動開始初期からマシン開発に携わる山中さん

花沢:
その次の第2戦は24時間レースという長丁場のため、レース中に雨が降る可能性もありました。Team SDA Engineering はプロドライバーのほかに社員ドライバーもマシンを操るため、滑りやすい雨の路面でレスポンスが良すぎると、社員ドライバーにとっては逆に運転しにくいのでは?と考えたんです。

そこで、第1戦で使用した「パンチ感」のある制御のほかに、よりドライバーの感覚にフィットするような、昔でいうワイヤースロットルの感覚をイメージした予備モードも作って、切り替えられるように準備しました。その予備モードは実際に使う場面がきました。レース中にリヤウイングを破損したため取り外したところ、リヤタイヤの接地感が薄くなり、普段以上に繊細なアクセルコントロールでクルマを操らなくてはならない状況になってしまいました。そこで試しに予備モードに切り替えたところ「これなら乗りやすい!」というコメントがドライバーから得られたんです。それが今回開発したSPORTモードの原型なんです。

「やってみよう!失敗しても直せばいい」で開発が進んだ

山中:
時は変わって2023シリーズの第3戦 スポーツランドSUGOでの出来事です。SUGOは下り坂のコーナーが多くリヤの接地が抜けやすいコースなのですが、7 月の梅雨時ということもあって雨が続いていました。滑りやすい路面状況の中で、当初持ち込んだ制御のままでは運転しづらそうにしていたので、よりマイルドで社員ドライバーでもコントロールしやすいマイルドな制御を、突貫で作って決勝レースに臨んだんです。

その甲斐もあって無事レースを乗り切ることができたのですが、後でその制御を確認したところ、従来からある量産モデルのBRZの制御(=NORMALモード)とそっくりだったんです。雨で濡れた路面のような滑りやすい環境下ではNORMALモードが有効であるということを改めて実感できましたし、これらが切り替えられることでよりBRZの魅力を高められるはずだ!という手ごたえも同時に感じましたね。

雨の中で戦う「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」

雨の中で戦う「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」

花沢:
その場で制御を書き替えてレースに臨む…というのはまさにモータースポーツならではのシチュエーションだと思いますが、スーパー耐久シリーズにおける活動では万事こうした発想です。「ある程度形になったら積極的に実戦に投入し、そこで何か問題が起きたら直そう!」というスタンスで、もしレースで結果が出せなかったとしても次のレースまでに直せばいい。どんどんチャレンジさせてもらえる、まさにアジャイル開発を実現できる場なんです。量産車の開発も常にタイトなスケジュールとの戦いですが、スーパー耐久シリーズでの経験があったからこそ、今回のSPORTモードを開発することができたと感じています。

アジャイル開発は人の成長も加速する

山中:
SUBARUでよく言われるのは「人を中心としたモノづくり」という言葉ですが、実際にやるのはすごく難しいと日々痛感しています。これを自分の仕事に落とし込んで考えると、「お客様が運転するシーンを想像しながら、その時々にクルマをどう制御すべきか?を紐づける」ということなんですが、スーパー耐久シリーズではレーシングドライバー・社員ドライバーという「お客様」を相手に、スピード感をもったクルマづくりを経験してきました。そうした中で自分自身の成長も感じられるので、とてもやりがいを感じています。
花沢:
エンジニアは課題があってなんぼで、課題があるとそれを「クリアしたい!」と燃えますし、自分でも気になるところがないか常に考えていないといいクルマはできません。だからこそ、私たちが試行錯誤でつくったものをドライバーに「いいね!」と言ってもらえたときは本当にやりがいを感じるんです。「次は何をしよう?」と、山中さんはじめ開発メンバーはみな同じ思いを共有していて目を輝かせています。

今回は「アジャイル開発ってこうあるべきだよね」というのを実感しながら開発ができ、改めてSUBARUを好きになりました!

中山さん 花沢さん

レースの現場でスキルを磨き、「人を中心としたモノづくり」を志す「SUBARUびと」。ぜひ、次回のコラムもご期待ください。

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