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PROJECT01
新型車開発
デザイン、走り、安心、ユーティリティ。4拍子そろった「愉しい」クルマを、品質最優先でつくる。そして両モデルの個性も際立たせる。すべてはお客様に喜んでいただくために――。新型クロストレックと新型インプレッサの開発プロジェクト、その長期におよぶ取り組みを、開発責任者と設計担当者の2名が振り返る。
商品企画本部
S.K
本プロジェクトにおける開発責任者として、プロジェクト・ゼネラル・マネージャーを務める。機械工学科卒、1993年入社。
ボディ設計部 主査1
Y.K
2021年より本プロジェクトに参画し、ボディ設計部の取りまとめ役を務める。機械工学部機械工学科卒、2014年入社。
お客様に喜んでいただける、愉しいクルマをつくろう。
アウトドアを楽しむSUVのクロストレック。スポーティなハッチバック乗用車のインプレッサ。異なるキャラクター・カテゴリーの両モデルだが、実は同一車系のため、新型車の開発は同時並行で進められる。骨格はもちろん、部品の大部分についても共通化され、ほぼ同等の性能を備える。そんな2モデルの新型車開発プロジェクトが始動した。開発責任者であるプロジェクト・ゼネラル・マネージャーには、商品企画本部のS.Kが任命された。まず取り組んだのが、開発の方向性を決めることだ。
S.Kが中心となって議論を重ねた結果、「4つの価値」を重点的に進化させることが決定した。すなわち、「デザイン」「走り」「安心」「ユーティリティ」の向上である。さらに、それらを集約する言葉として掲げたのが、“FUN”=愉しさというコンセプトだ。
「クロストレックとインプレッサはどちらも基幹モデルだからこそ、あえてベーシックな価値にこだわりたかった。全方位ではなく、直接体感できるところを中心に伸ばしていこうと。両モデルのお客様は、アクティブな趣味をもち、愉しさを求める方々。SUBARUらしい、愉しいクルマをつくろうと決めたんです」。
“FUN”とは別に、プロジェクトメンバーが大切にしたキーワードがもうひとつある。それは「品質」だ。2018年発表の中期経営ビジョン「STEP」で大きく打ち出された「品質向上への取り組み」。本プロジェクトでは、品質最優先で取り組むことが基本方針となったとS.Kは話す。
「大がかりな技術開発は、品質上のリスクをともなうので見送ることにしました。その代わり、小さな改良の積み重ねで、いかに大きな価値を生み出せるか。そこで勝負しようと考えました。両モデルの売りは安心感があること。シートでも車体でもなく、気持ちよく走れること。大切なのは、クルマ1台で見たときの魅力で、お客様に喜んでいただくことですから」。
飛び道具はない。全員で少しずつ、価値を高めればいい。
では、具体的にどんな取り組みに挑戦したのか。わかりやすい例が、4つの価値のうち「走り」の向上につながる開発である。「派手な飛び道具がなくても、走りの体感は変えられる」。ボディ設計の担当者としてその思いを実践したのが、2021年からプロジェクトに参画したY.Kだ。
「現行の骨格を最大限に活用しながらの開発でしたが、いくつかの新しい技術に挑戦しました。『走り』に関するものだと、ウエルドボンドの延長や、サス取付部の剛性向上など。高減衰マスチックの採用もそのひとつです。マスチックとはゴムの弾性接着剤。振動しやすい薄い板金のルーフに使用することで振動を抑制し、車内の静音性を高めました。今回初めて採用したので、試行錯誤の連続でした。机上だけではわからないから、テストピースで何度も試験し、実験車を何台もつくりました」。
さらに、骨盤と背骨をつなぐ「仙骨」をピタッと支持することで、頭部の揺れを軽減するシートも開発。こちらについては大学の医学部と共同研究し、人体構造をベースにした医学的アプローチを試みた。
いずれの技術開発についても、それぞれのパーツの変化が特段大きいわけではない。ただ、これら一連の取り組みを積み上げていった結果、「ずっと乗りたくなる」「気持ち良く運転できる」、そんな「走り」へと大きく進化したのだ。司令塔としてプロジェクト全体を俯瞰していたS.Kは言う。
「どの変更ひとつを取っても、簡単ではありませんでした。新しいメカニズムは研究実験の部門が解明し、それを量産化する際は、設計や生産技術、材料のメンバーが関わる。いかにして品質を担保するか。性能を高められるか。みんなが悪戦苦闘しながら乗り越えていったんです」。
苦労したのは「走り」だけではない。「安心」については、360度マルチビューモニターやアイサイトへの単眼カメラ採用などを行い、「ユーティリティ」については、レヴォーグのインフォテインメントシステムを搭載した。いずれにおいても、さまざまな部門が試行錯誤を繰り返したからこそ、両モデル共通の魅力へと昇華させることができたのだ。
遊び心から生まれた、キラリと光るデザイン。
一方、両モデルの違いを強く意識しながら取り組んだのが「デザイン」である。クロストレックの商品コンセプトは、「休日が待ち遠しくなる、アウトドアアクティビティーの”相棒”」。路面とのクリアランスをインプレッサよりも60ミリ以上広げ、悪路での走破性を高めるとともに、プロテクター類のボリュームを強調するなど、SUVとしての頼もしさを演出した。よりアウトドアに出かけたくなるクルマへと進化させたのだ。
それに対して、インプレッサの商品コンセプトは、「行動的なライフスタイルへといざなうユーティリティ・スポーティカー」。三角メッシュのワイドなグリルや、左右を強調する造形イメージなどでスピード感を演出しつつも、多様な価値観を持つ若年層をターゲットに見据え、オールマイティな乗用車感を損なわないよう配慮した。
そうした個性を際立たせながら、身軽さや軽快感は両モデルで共通の特長とした。また、ドアステップ・荷室リアカバーの滑り止めには、「山」をモチーフとした模様をあしらった。「こうしたら、アウトドア好きのお客様に喜んでいただけるのではないか?」そんなアイデアを、遊び心をもって形にしたものだ。愉しいクルマを、つくり手自身が愉しみながらつくる。そのひとつの実践例である。
コロナ禍でこそ、初心の“FUN”を忘れない。
新型クロストレックは2023年1月、新型インプレッサは2023年4月に市場導入された。お客様からはおおむね好意的な評価をいただいているという。走りや安全という、クルマとして最も基本的なところに磨きをかけ、そこが支持を集める理由になっているのだ。狙い通りの開発ができたのはなぜか。キーワードはやはり、S.K自身も強く意識した“FUN”というコンセプトだろう。
「実はこの言葉には、プロジェクトメンバーに向けた声かけの意味合いもありました。『みんなで愉しくつくろう』というメッセージです。プロジェクトの中盤にはコロナ禍で対面の議論が制限され、雰囲気が沈みがちに。そんなとき、この言葉がみんなの背中を押した。チームの士気を高める道しるべになりましたし、ユニークなアイデアもたくさん出てきました」。
コロナ禍に入ってからプロジェクトへ参画したY.Kもまた、“FUN”を強く意識したメンバーのひとりだ。
「つくり手にとって一番うれしいのは、お客様から喜びの声を聞くこと。そこで、例えば試乗会でいただいたご感想を、設計や製造のメンバーに共有することを心がけました。すると、みんなとても喜んでくれて、士気も上がった。自分ひとりではなく、みんなで愉しく開発するため、私なりに工夫したことです」。
お客様にとって愉しいクルマをつくる。そのために、つくり手である自分たち自身も愉しむ。その姿勢は、また次の開発プロジェクトへと受け継がれるだろう。
「どうすれば、お客様に喜んでもらえるか?」を、全員がマジメに愉しく考える会社。
企画から開発、量産、市場導入までに長期間要した。参画したメンバーは、各本部・各部全社から多くのメンバーが参加しています。膨大な時間と人、そして少なくない予算を投入して“FUN”を追求したのがこのプロジェクトです。新型車の開発というと華やかな面ばかりに目がいきますが、その裏ではたくさんの仲間が知恵をしぼり、議論を尽くしている。どうすればお客様に喜んでいただけるかを、一人ひとりが真剣かつ「愉しく」考え抜いている。主体的に動き、やりがいをもって働きたい方にとって、SUBARUはまさに「愉しい」会社だと思います。
「品質重視」のSUBARUは、「挑戦重視」の会社でもある。
このプロジェクトを通して改めて感じたのは、挑戦を大切にするSUBARUの文化です。「これをやらせてください」と提案すれば、しっかり耳を傾けてもらえます。もちろん、品質を確保した上での費用対効果などの検証をクリアする必要はありますが、やりたいことを実現するチャンスは豊富にあります。そうやって形になったものは、この車でもたくさんあります。SUBARUは「品質重視」の会社ですが、同時に「挑戦重視」の会社でもあります。