スーパー耐久に挑むSUBARUの技術者たち。今回は車両環境開発部の中野さんとE&Cシステム開発部の中さんにインタビューしました。
車両環境開発部|中野 勉 & E&Cシステム開発部|中 政樹 HOME SUBARUらしさ SUBARUびと 車両環境開発部|中野 勉 & E&Cシステム開発部|中 政樹 極限の世界で“品質”を磨き、カスタマーチームとの絆を築く 車両環境開発部|中野 勉E&Cシステム開発部|中 政樹 記事内の日付や部署名は、取材当時の情報に基づいた記述としています スーパー耐久に挑むSUBARUの技術者たち。今回は車両環境開発部の中野 勉(なかの つとむ)さんとE&Cシステム開発部の中 政樹(なか まさき)さんにインタビューしました。 お二人は、通常のスーパー耐久活動とは異なる担当を受け持っているそうですが 中野: はい、SUBARU BRZをベースとしたST-Qクラス*1のレース車両「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」(以下、61号車)を走らせるチームとは独立して、ST-4クラス*2でGR86を走らせている6つのカスタマーチームのサポート業務を担当しています。2021シーズンまでは各チームがレギュレーションの中で自由にマシン製作をしていましたが、結果としてチーム間での性能差が大きくなりすぎてしまい、公平性の観点で問題を抱えていました。 そこで、カスタマーチームだけでは対応が難しいエンジンECUの開発を我々が請け負い*3、共通のエンジンECUを使って競ってもらうことでクリーンなレースができるのではないか?ということでサポートが始まりました。 *1:『メーカーの技術開発』『市販車へのフィードバックを狙った車両開発』が目的であれば参戦できる特別なクラス *2:排気量1,500cc〜2,500ccのエンジンを搭載したマシンが競うクラス *3:スーパー耐久機構事務局(S.T.O)がトヨタ自動車へ依頼し、業務依頼としてSUBARUが受諾 なるほど。その中で、中さんは具体的にどのような業務を担当しているのですか? 中: エンジンECUの制御プログラム開発を担当しています。通常業務でもソフトウェアの仕様検討を担当していますが、スーパー耐久ではそれに加えて、自分たちでコーディング(ソースコードを書いてプログラミング)するところまで受け持っています。 カスタマーチームの皆さんと接してみて、いかがでしたか? 中野: 私がスーパー耐久活動に参加した当初は、61号車の対応が主だったため、カスタマーチームへの対応は後手に回りがちでした。ですが、カスタマーチームのメンバーと実際に会話をしたところ、「もっとスピーディーに課題解決してほしい!」という切実な思いをぶつけられ、時には怒りの声を浴びせられることもありました。現実を突きつけられた感じでしたね… 具体的には、どのようなニーズがあったのですか? 中: 我々はエンジン制御が専門のエンジニアではありますが、車両全体に関する知識がないと対応できないニーズが非常に多いです。これは実際にあった話ですが、予選開始1時間前の朝、カスタマーチームからVDC *4警告灯が点灯した。何が問題なのか今すぐ確認してほしい!」という、私にとっては専門外の要求に冷や汗をかきました。 時間をかけて検証する余裕のない切迫した状況でしたが、結果的には専門部署のメンバーの協力も得ることで、何とか原因を究明することができました。この時、私は「専門領域外も含めた車両全体の知識がなければ、彼らのニーズに応えることができない」ということを痛感しました。 *4:Vehicle Dynamics Control(横滑り防止装置) カスタマーチームへのサポート対応で、印象的なエピソードを教えてください。 中野: 耐久レースという極限の世界では、通常では壊れないような部品が壊れるというトラブルが起こりえます。ですが、そのままでは壊れなかったチームが勝つという状態になってしまい、クリーンなレースが成立しません。そこで2023シーズンでは、幾度とないテストを61号車で行ったうえで、改良を織り込んだ対策部品をカスタマーチームに供給しました。その甲斐あって、カスタマーチームからは「ありがとう!」という感謝の言葉をいただくことができたのですが、その時はとてもうれしかったですね。 中: その対策部品をカスタマーチームへ供給開始するタイミングで私は今の担当に就いたのですが、当初の業務は対策部品の動作チェックだったんです。当時はかなりピリピリした空気を感じましたね…(笑) ひとつひとつ課題を解決していくことで、信頼関係を築いていったのですね。 中: 「カスタマーチームからのニーズに応えること」は、置き換えれば「一般のお客様からのニーズに応えること」と同じで、求められる品質や解決までのスピード感など細かい部分では異なりますが、根本的な部分では共通していると思います。この経験を活かして、お客様から信頼を寄せていただけるようなクルマづくりに取り組みたいと、改めて感じました。 中野: カスタマーチームからの要望を真摯に受け止めて対応に当たったことで、ドライバーも含めたカスタマーチームのメンバーからは「SUBARUはこういうこともやってくれるんだね」という信頼関係を築くことができました。今では「お互いに協力しよう」という良い空気感に変わってきていると感じています。通常業務だけでは味わえないような、迅速な課題解決の難しさやお客様の期待に応えることの大切さを経験できたことは、我々にとってかけがえのない財産になりました。 中野 勉(なかの つとむ) 1999年入社。大学では機械工学を学び、内燃機関に関する研究を専攻。入社から現在まで一貫してエンジン研究開発、制御開発に携わる。現在は車両環境開発部でエンジンの制御開発の課長、SDAディレクター 、JAFモータースポーツ専門部会委員などを務める。 中 政樹(なか まさき) 2013年入社。高等専門学校では電子制御工学を専攻し、電気・電子回路の設計やシミュレーション技術を用いた制御設計を学ぶ。入社後は一貫してエンジンECUのソフトウェア開発に携わる。現在はE&Cシステム開発部でBRZ/GR86のエンジンECU開発を務める。 「お客様と直接会話できるスーパー耐久の現場は、とても魅力的です!」と語ってくれた二人でした。レースを通じて切磋琢磨を続けるSUBARUのエンジニアたちの挑戦、次回のコラムもぜひご期待ください。